2013年度 カリキュラム@デジタルハリウッド大学院 2013年度 カリキュラム@デジタルハリウッド大学院

現代中国-デザイン教育とビジネス

日付
2013年06月22日 19:00~
場所
東京ミッドタウン
受講生の感想

記:高野 六月

 中国の天才企業家/馬雲(Ma Yung、ジャック・マー)の率いる「タオバオ」(中国語で「淘宝網Tao Bao Wang」)というウェブサイトをご存じでしょうか? 『中国巨大サイト・タオバオの正体』(2010年6月、山本達郎著、出版:ワニブックス)によると、2003年に設立後急成長し、2009年に既に商品出展数5,000万点・取引額3兆円を突破。今では8億点を超える商品を扱う消費者向けショッピングサイトです。

 家電量販店でテレビを購入してもダンボールを開け、必ずその場で電源を入れる程消費者が店を信用しない中国での事業にも関わらず大躍進した理由は、画期的な決済システムを採用して信用問題を解決した事、出店費用や販売手数料等を無料にしてネットショッピングの敷居を低くした事、チャットを使ってリアルタイムで価格交渉が出来る事等、中国人の国民性や嗜好にマッチしたシステムを構築した工夫が挙げられます。ただ、馬氏と共にタオバオのロゴを作り上げサイトに命を吹き込んだ人物の事は知られていないでしょう。それが今回の講師、PAOS上海代表「王超鷹 (Wang Chao Ying)」氏です。

 王氏の人生は文字通り波乱万丈です。幼くして親元を離れ、見よう見まねで初めた古代文字の篆刻のアルバイトで生計を立てながら美的感覚を養い、来日後入学した武蔵野美術大でPAOS/中西先生と運命的な出会いを果たしPAOSへ入社。1997年にPAOS上海を設立してからは、世界的投資家ウォーレン・バフェットにスーツを作った事で有名なTRANDS(大連大楊創世股份有限公司)や、ダイキン、資生堂等、内外資問わず活躍する中国企業を支援。今では、「デザイン」を駆使して、顧客や最終消費者と企業の思いをつなぐスペシャリストとして活躍しておられます。また、幼少期培った知見と技を一貫して磨き、トンパ文字、古代文学、漢字の研究者としても有名です。

 私が講演を聞き深く感銘を受けたのが、王氏が一貫して持つ文化や文字、言葉へのこだわりでした。今でこそ1千数百校ものデザイン学校が設立されていると言われるデザイン大国・中国なのですが、事務所設立当初は「デザイン」という概念すら無く、一番近いのが「設計(She Ji)」という建築設計のイメージの強い言葉でした。そんな逆風の中、王氏が一貫して「デザイン」を「文化提案」と訳すことで企業家に新たな視座を与え、一緒に企業文化を育てる形で支援して来たとの事。好例が前述したタオバオです。実際のロゴをご参照下さい。

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 「淘」は探す・掘り出す、「宝」は文字通り宝を表します。見つけられないものは無い、という意味を表現するロゴなのですが、英語の補足説明も無く、あえて中国人にしか意味が分からないロゴになっています。これには、海外市場で無く中国国内市場を徹底的に攻めるという馬氏の覚悟が反映されています。実際、現在でもタオバオのサイトには中国語以外の翻訳はありません。また、吉兆の字画にする為に、「淘」のさんずいが、二画で書ける様にも工夫されています。更に、タオバオはカッコ良すぎるサイトにはなっていない、ともおっしゃっていました。このサイトは、一般民衆 (=老百姓 (Lao Bai Xing))が集う露店の為のサイトであり、ブランドショップの様な面構えには成らないとのこと。これら馬氏との実際の議論をご紹介頂く中で、「デザインという武器を活用し、企業家の思いを具体的にイメージ化し、支援する」という王氏の矜持を強く感じました。

 王氏に限らず世界で活躍されている方々は、1つ1つの小さな積み重ねを大事にされている気がします。日々自分が使う言葉としっかり対峙しているか、見えないものを見る努力をしているか、未来を切り開ける人材へと成長する為にはどうすれば良いか・・・王氏の講義を聞き、STRAMDに通い始めてからどんどん大きくなるモヤモヤ感に小さな光が見えた気がしました。

《STRAMD》

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