2012年度 カリキュラム@デジタルハリウッド大学院 2012年度 カリキュラム@デジタルハリウッド大学院

日本文化とデザイン論5

日付
2012年12月06日 19:00~
場所
桑沢デザイン研究所
概要
文化戦略としてのホテル・・・市民に愛されるホテル オリエンタルホテル広島
受講生の感想

記:古石 卓巳

記:古石卓巳

「夕日をデザインしたい。」
講義の最後で出た言葉である。デザインとは自己満足するものではない。人間共通に喜ばれるもの、誰でも共有できるものを目指すべきである。インテリアデザイナー・内田繁氏の目線と言葉は、優しさと豊穣さの中に強い意志が溢れている。実に懐が深い。

人間共通の空間として、ホテルデザインがテーマだ。ホテルは「寝る・遊ぶ・食べる・集う」など人間の営みが詰まっている非日常的な空間である。しかもそこには必ず立地と言う地域性が存在している。その地域性にフィットした「戦略的デザイン」が大切だと言う。確かに、どこに行っても同じ”価格戦略”だけのホテル、市民からも知られていない愛されないホテルは、つまらない。

前回に引き続き取り上げられた事例は、オリエンタルホテル広島である。リニューアルにあたり、内田氏は「文化戦略」を基本コンセプトに据えた。宿泊客のみならず広島市民に愛されるホテルにするにはどうするのか、都市型ブティックホテルとしての強みをどう発揮するのか。茶の湯に通じる「もてなし」「しつらい」「よそおい」「おもい」という理念をベースに、主に1階ロビーを建て増しも含めた全面改装、レストランやギャラリーを中心とした文化的空間を演出した。しかもファシリティの機能を固定化しない。「融通無碍」に様々なコンサートや展覧会、講演やシンポジウムを仕掛けていった。しだいに市民が「集う」空間になっていった。

経営的・財務的視点でも興味深い。ホテルのリニューアルは多額の設備投資が必要である。将来のキャッシュフローを生み出す源泉として、これらの「文化的価値」を定量化することは実に難しい。しかも初期のギャラリーやイベントは、ほとんど無料で全く儲からない。実行するに当たっての経営側への「説得」はかなりのものだったらしい。しだいに口コミによって稼働率は上昇し収益性も向上、現にリーマンショック後も売上は上昇したというから驚きである。

デザインは決して表層的な色・形・機能ではない。何が目的なのか、そのための方法とは?一見優しい日本文化の「もてなし」や「ゆらぎ」を取り入れたホテルデザインには、戦略的デザインの凄みすら感じた。

《STRAMD》

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