2016年度 カリキュラム@デジタルハリウッド大学院 2016年度 カリキュラム@デジタルハリウッド大学院

期待学

日付
2016年06月29日 19:00~
場所
デジタルハリウッド大学院大学
受講生の感想

記:泉 佳子

教室に入ると、机の上には紙粘土とアイマスク。「今日は一体何が起こるのだろうか?」と、それだけでワクワクする。

●感情と記憶の関係

私たちは目の前の現象に対して、これまでの経験をもとに判断をしている。では、その経験はどのように私たちの中に蓄積していくのだろうか。まずは、その経験を形作る「記憶」のメカニズムについて知る必要がある。

●不安になりやすい日本人。不安と期待、記憶の関係

そもそも日本人は、恐怖遺伝子と呼ばれる「セロトニン・トランスポーター遺伝子」を持つ人の割合が97%と非常に高く、UAI(Uncertainty Avoidance Index:不確実な情報に不安になる人の割合)が世界で二位になるほど、『不安になりやすい民族』なのだという。
そんな負の感情である“不安”と対極にあるのが、肯定の感情“期待”である。不安を「あいまいで不確実な心の状態」とするならば、期待は「次に起こることを予測し、準備する状態」とすることができる。予測するには過去の経験に基づくしかないため、ここでも「記憶」について探る必要が出てくる。

人間の脳は嫌なものは“より嫌”に、良いものは“より良く”記憶するようにできている。そして“嫌”や“良い”といった感情は、その時の行動と結びつけて記憶される。私たちの感情とは、記憶のためのツールなのである。もし仮に、「嬉しかった」という感情のみの記憶があったとしても、「何が」という行為の部分がないと、他人とその感情を共有するのは難しい。感情だけでは他者の共感は得にくいのである。

●新規性と親和性。本当に新しいものとは?

「期待学」の定義に、“新規性と親和性”がある。「本当に新しいものを、人間は受け入れられるのか?」という問題だ。本当に新しく、見たことも聞いたことも、想像したこともないものだったら、私たちは恐ろしくて触ることなどできないだろう。期待を超え、良い意味で予測を裏切ったものだからこそ、「新しい」と感じながらも、受け入れることができるのである。

ここでは、デザインをする際の、「使い手と作り手のギャップ」についても触れられた。作り手の“慣れ”は恐ろしく、その業界内では「このラインが美しい」「このフォルムがたまらない」などと語っていても、実は使い手側はそんなところは気にも留めていなかったりする。むしろ「もっとココ使いやすくならないかなぁ」なんて思われているかもしれない。一人のデザイナーとしては、耳の痛いお話だった。

しかし今日の科学技術の進展によって、そんなギャップ埋める方法も出てきている。脳の働きを知るための「認知科学」の領域では、現在は直接脳波を測定しなくても、表情や目の動きを調べれば、その人が何を考えているか(感じているか)といった「脳の動き」を追うことが可能な時代なのである。

●記憶化するデザイン

ここまで来たところで、もう一度「記憶」の話に戻る。人間は、忘れる生き物である。“忘れる”ということは、“記憶が変容する”ということでもある。
例えばここに、ポケットが二つ付いたショルダーバッグがある。それを被験者に憶えてもらい、一日後、三日後、一週間後に、そのバッグの絵を描いてもらうと、段々とおぼろげな細部はそぎ落とされてゆく。ただ二つのポケットを除いて。そのポケットは「記憶が変容しても残っている部分」であり、まさに「記憶化」された部分である。そして、それこそがデザインのポイントであり、デザインする際は意図的に(肯定的に)記憶に残るように工夫することが求められるのだ。

●無意識の“お決まり”共通意識に気づく

ここからは、手を動かすワークショップの時間。用意された紙粘土を使って、アイマスクで目隠しをして、最初は手の感覚だけで作り、途中で目隠しを外して形を整えるという手順だ。
まずは「優しい形」を作り、全員の作品を前へ並べる。完全な球に近いものから、ひょうたんのようなもの、少し平べったいものまであるが、「つるつる、スベスベした丸みを帯びている」というのは共通していて、どこか似ている。これは、私たちの頭の中に『優しい形ってこういうものでしょ?』という、ある意味“お決まり”の共通意識が働いているからだという。

続いて「怒った形」。これも、トゲトゲ、いがいがしたもの、というのは多くに共通しているが、先ほどよりは形にバリエーションが出てきた。

三つ目は「切ない形」。これは、更にバリエーション豊かになった。違う形になるということは、「切ない」に対するイメージがそれぞれ違うということ。段々、「その人の形」になってゆく。私たちは無意識に周囲の枠を自分に当てはめて物事を見るクセがついている。そのことに気づかせてくれる課題であった。

●視覚を遮断し、他の五感を活用する

先ほどの手順は三つとも同じ。最初に視覚を遮断するのにも、もちろん意味がある。私たちは普段、相当に視覚情報に頼って生活している。つまり視覚入力過多なのである。そこで、あえて視覚を遮断してみる。するとどうだろう。意外に見ていなくとも、頭で思い描いた形を手(触覚)だけで作れているではないか…。
目の見えない人たちは、入った部屋が吹き抜けか、人が居るのは部屋の手前か奥か、ドアを開けてすぐに分かるのだという。それだけの鋭敏な感覚が、人間には備わっている。
もっと自分の五感に自信を持ち、更に鍛えていくこと。そのためには、時折わざと自分の入力方法を変えてみることが効果的である。

●自分の入力方法を変える!

例えば、人間は食事をする時が最も五感が高まる。そこで、利き手とは逆の手で食べてみる。または、目隠しをして食べてみる。すると、いつもは気付かなかったことに気付けるようになるという。さっそく試そうと思ったが、今日もうっかり右手を使ってしまった。習慣というのは恐ろしい。テーブルの前に「左手で食べる」とメモを貼った。明日こそ挑戦してみよう。

●クロスモーダル(五感)することで、自己拡張を促す

最後は香水を使った課題を二つ。一つ目は全員で同じ香りを嗅ぎ、連想した色を答えるというもの。青系、茶系、紫系、赤系、黄系、緑系…出てきた色は様々だ。同じ色を答えた人は、感覚の近い人だという。実はこの香水のテーマは「土」で、ラベンダーが調香されていることを聞いて、茶や紫と答えた人は鋭いな、と思いつつ、私が感じた「黄に近い緑」はどこから来たのだろう、と不思議に思った。

二つ目の香りでは、頭に浮かぶ風景を言葉にする。(こちらの香りはホワイトジャスミンだった。)その言葉を絵にしてみる。そこから連想する形を今度は紙粘土で作る(こちらでも最初は目隠しをし、最後は見ながら形を整える)。最終的には、その立体物を身の回りの家具などに置き換えて、製品になった時のイメージを絵で表現し、色や素材まで想像しながらクレヨンで色を塗り、プレゼンテーションする。発表されたのは、箸置きから照明、ソファ、ベッド、縮尺を大きく変えて生み出したもの etc…。実に多様で一つとして同じものはなく、着眼(鼻?)点の個人差も、非常に興味深かった。

鼻から入ってきた香りから、イメージを絵や粘土で表現する。もしくは耳から入ってきた音楽から、その情景を描く。意識的にクロスモーダル(五感)させることで、これまで使われていなかった経路が作られる。これまでの自分を打ち破ること=『自己拡張』のための手段を、沢山教えて頂いた。自分の可能性を感じ、自信の湧いてくる講義だった。「期待学」の講義は二回目があるそうなので、とても楽しみだ。一日ではまだ理解が追いつかないため、次回までに自分なりに理解を深めておきたい。

デジタルハリウッド大学院と連携5年目 2017年度第8期開講

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