2011年度 カリキュラム@デジタルハリウッド大学院 2011年度 カリキュラム@デジタルハリウッド大学院

特別講義:中西流撮影術

日付
2011年06月16日 18:30~
場所
桑沢デザイン研究所
概要
素人でもセミプロ級の写真を撮る方法
受講生の感想

記:小川名 珠梨

第19回 記:小川名珠梨

不意なことから、本日の後半の授業は念願でありました ”中西先生の写真講座” の授業になりました。
まさか、中西先生の写真講座にて私の持参した写真を題材としていただけるとは、予想もしていませんでした。

実は、二日前に先生に思い切って、自分の撮った写真をお見せする機会があったのです。
私の写真を見た先生は、それらの写真を持ち帰って後に講評をしますとおっしゃってくれました。
先生のような偉大でとても多忙な方に講評いただける機会はなかなかありません。
突然のおもいかけないお言葉に、驚きと同時に先生のやさしさをとても感じていたのです。

前半の授業は先生の事業の記録のDVDを拝見しました。

DVDの中には先生のオフィスにお客様が訪問し、会議を行うシーンがありました。
いいアイデアが出るのは頭がリラックスした状態、その後に何も行うことがないという脳が解放した時に思わぬ言葉がお客様からでたりするそうです。ヒトラーの重要な演説は夕日をバックに行うことも多々あったそうです。なかなかの演出力です!
な るほど、行う内容の打ち合わせにもよりますが、夜に脳が開放的になったほうが頭の回転もいい場合もあり、特にアイデアを出す時には効果的だなと感じまし た。また、飲み物や食べ物を提供し、みなが口を動かすほうが脳の回転もよくなり、話も途切れずに会合が進むというのも聞いたことがあります。

また、以前から会社が必要なことは変わっておらず、会社というのは常に時代とともにあること、時代の先を見通す力、その時代の新しい価値を創造していく力が 必要になる、という言葉をいただきました。このようなことを考え、行動し、社会の問題意識をもって行動できる人間を育てたいという、STRAMDをはじめ るひとつのきっかけだったそうです。

さて、後半では、いよいよ先生による写真講座です。

先生の著書であるDECOMAS(※1)に使われている写真は先生ご自身が撮られたそうです。経営者としてでなく、芸術家としても才能を兼ね備えてらっしゃり、バーサタイリストとは先生のような方をいうのだろうと思いました。

初めに先生による ”素人でもセミプロ級の写真を撮る方法” についてお話して頂きました。
その中でも特に印象に残ったのは

誰が見ても、何を見せたいのか誰にでも判る写真を撮る

ということです。

これは後に私の写真でもコメントをいただけることになるのですが、写真を撮る時にどうしても欲張ってしまい、他のものまで撮ってしまいます。どれもこれも撮ってしまい、自分がみせたいものが主役になるように撮れていない写真になってしまっています。


先生のコメントは

写真として面白く見せたいならば、
-主役をはっきりさせること。
-もしリンゴを見せたいならば、リンゴ自体にピントを合わせる。(葉っぱにピントが合ってしまっているの)
-リンゴを目立つように配置する。

演出を面白くするなら、
-リンゴがリアルに見えすぎているため、リンゴの箇所をもっと切ってしまう。
-いろいろ写りすぎて欲張っている。右脇のラインも切ってしまったほうがいい。

そう、この写真ではリンゴとAppleのマークどちらを引き立たせたいのかわからない写真になってしまっています。
面白い写真はどこにピントを合わせ、どこをぼかすのか、光と影を考え、トリミングも考慮して撮る必要があるとおっしゃっていました。一枚に思いを込めて、絞り、シャッター速度、光、構図、全てを考えて撮っていくことで写真は上達していくのだと思いました。

今 日はデジタルカメラで簡単に撮ったものを見て、消したりできるようになり、フィルムの時代と比べ、一枚一枚のシャッターに込める気持ちが薄くなっているの だと思います。私もその一人になっていました。写真をたくさん撮ればいいものが撮れるものではないのだと、自分で思い描いているものを最初に考え、それを 表現するために、絞り、シャッター速度、光、構図、を考えて撮る必要があるのだと強く感じました。

撮るときに、どのように使われるのか、プレゼンテーション用か、レイアウトはどういったカタチにするのか、と撮った写真をどうするのかを考える必要もあるとおっしゃっていました。写真は見せることを前提にして撮らないといけない、そう痛感しました。

写真の講評後には素晴らしいポートレート写真集 土門拳 風貌(※2) を見せて頂きました。
人物の写真を撮るのはとても難しいことです。顔を写した瞬間にその写真のイメージを全て決めてしまうほどの強い印象をもたらすからだと思います。この写真集に載っている人物はひとりひとりがその人らしい写真に撮られています。
素晴らしい一冊でした。ありがとうございます。

題材にしていただいた私の写真は先生に見ていただくにも恥ずかしい素人写真であり、クラスメイトには個展を開いたり仕事でカメラを使っている方もいらしたので、授業中はずっと小恥ずかしい気持ちでいっぱいでした。
しかし、このような貴重な経験はなかなかありません。いただいたコメントをもとに写真を撮り続け、スキルを上げていきたいです。

中西先生、私の素人写真を一枚一枚に丁寧にコメントをしてくださり、ありがとうございました。

※1 DECOMAS

※2 土門拳 風貌

(2011.6.30 記)

受講生の感想

記:高間 亮行

第19回 記:高間亮行

*本授業については、すでに小川名さんがblogを書かれていますが、私は授業後半の「中西流写真の撮り方」について、掘り下げて書かせていただきます。

「中西流写真の撮り方」については、もともと予定されていたプログラムではなかったが、都合により写真術の講義となった。日頃から写真を撮るが好きな私には興味深い内容となりました。

最初に写真とは、事実を写し出すだけでなく、見せたいものに注目を集めさせたり、誇張したりと、時にはだましのテクニックを使うこともできる道具なのであるという。確かに、普段私達は好きな方に顔を向け、無意識に見たいものに焦点をあてているが、写真の世界では撮影者の意図により空間が切り取られ、ピントが合わせられている。逆に言えば、撮影者としてはそれを最大限利用しない手はない。

以下、写真のプロでなくても、守るべき点を知っていればセミプロレベルまで写真のレベルを上げることができる、中西流の写真の撮り方10か条である。

1)何を見せたいのかが誰にでも判る写真を。
良い写真とは、言葉で説明を添えることなく、伝わる写真である。どんな写真を撮る場合でも、常にこのことを意識するかどうかで、伝わる度合が大きく異なる。

2)欲張らないこと。対象をハッキリ絞り、主役に見せる工夫を。
ファインダーを覗くと、主役となる対象物の他にも魅力的なものが見えることがある。もちろん、一度に複数の対象物を撮ろうとすれば撮れるが、どうしても主役が霞んでしまう。そのため、主役以外はファインダーに入らないよう、自分で動いて空間の切り取り方を変えてみたり、ボケを利用して主役以外の存在感を弱めたりする工夫があると良い。

3)水平垂直を守る。
例えば建築物を撮る場合、水平垂直を守らないと、建築物が歪んで見えてしまう。また、水平がわずか1度でも傾くと、実際はそれ以上に大きく傾いているように感じ写真となる。それを防ぐためには、建築物等とカメラ面と平行にすることを心掛けたり、方眼タイプのファインダースクリーンを活用したりすると良い。

4)アングルを振る時は、中途半端に振らず、傾けずに思い切って振る。
上記3に通じるものだが、わずかな傾きは不自然と捉えられるため、意図的に傾ける時は、思い切りが大切。

5)被写界深度を活かす。ピントは前ピンが基本。
明るいレンズは被写界深度が狭く、背景がボケる。そして、そのボケを利用して背景を省略することで、主役を引き立てることができる。また、被写界深度が狭い場合、ピントを合わせる位置が重要となるが、被写体の最も手前にピントを合わせておけば間違いはない。もちろん、表現意図により、奥側にピントを合わせても良い。

6)光と陰を利用し、時には写り込みも利用する。
写真とは、光と陰を操る芸術。光と陰を理解するためモノクロで撮影することは、写真の原点に戻ることができ、勉強になるので試してみると良い。また、日の射し込む位置によって対象物の魅力も変化するため、太陽の位置を考えるためにもコンパスを利用するのが良い。さらに、私の場合、旅で訪れた土地では必ず日の出と日の入り時間を現地の人に聞き、確認するようにしています。

7)地と図関係を意識し、主役を引き立てるアイディアを。
2番目の「対象を絞る」にも通じるが、主役が背景に溶けこんだり、背景がノイズとならないよう気をつける。それを気を付けさえいれば、必ずしも主役が真ん中である必要はない。

8)雰囲気を伝える。
例えば海外で撮影しても、撮影ポイントによっては日本で撮影したような写真に見えることもあるが、その場合ノイズにならない程度に現地の人を入れると、雰囲気が出る。また、滝など動いている被写体はシャッタースピードを上げると水が止まって見えてしまうため、あえて遅くして、滝が流れているように見せたり、鉄道を撮る時に鉄道に合わせて流し撮りをしたりすると雰囲気が伝わる。

9)スケールを取り込む。
家やビルを撮影する場合、写真を見ればある程度の大きさは分かるが、サイズ感が伝わりにくい被写体を撮影する時には、人物や樹木、自動車などを入れると良い。私個人の具体例では、旅先で訪れる遺跡がそれにあたります。特にエジプトのアブシンベル神殿やヨルダンのペトラ遺跡などは、サイズが分かりにくいため、意識的に人物を入れて撮影しました。

10)使うシーンを頭に描いて撮る。
単なる個人的な記録用ではなく、その写真をプレゼン時にプロジェクターで投影するのか、または印刷するのか、または広告で使うためあらかじめコピーを入れるスペースを空けて撮るなど、撮る前から構図を考えると良い。

以上が中西流10か条です。

その他、私個人が普段撮影する時に、気を付けていることを3点付け加えます。
1)とにかくブレさせない
基本的すぎる事項のため、中西先生の写真術では取り上げませんでしたが、カメラはシャッターボタンを押す時にブレることが多い。よって手持ちの場合は脇を締め、シャッターボタンでカメラ本体がブレないよう軽く押す。時には柱に寄り掛かったりするだけでも効果的。また、夜景の場合は、三脚の替わりに橋の手すりの上にカメラを置き、2秒程度のセルフタイマーを使うだけでもかなりブレは防げる。

2)手前と奥のモノを両方入れる
のっぺりとした平面的な写真になってしまう場合、遠近感やリズムが生まれるよう、意識して主役より手前のものと奥のものを入れるようにしています。ただし、あくまでも主役のノイズとならない工夫が必要かと思います。

3)同じ地点で撮影する場合は、カメラの高さを変える。
カメラは立って撮影することが多いが、立って1枚、しゃがんで1枚、台に立って1枚、時には地面すれすれに構えて1枚。このようにカメラの高さを変えるだけでも、同じ地点で撮影したものとは思えないくらいのバリエーションが生まれます。

(まとめ)
中西先生は、常に写真の受け手に立って、目線がどう動くのか、それを意識することの重要性を説いていました。1枚の写真を見て、見せたいもののほかにノイズとなるものがあれば、人はどうしてもそちらに気をとられてしまう。そのため、フレームの外に追いやったり、ボカしたり、撮影後にトリミングしたりすることにより、見せたいものの「選択と集中」を行うことが大切。

「選択と集中」は、写真に限らず、グラフィック、プロダクト、ムービーをはじめ、何かを表現する場合のすべてのものに当てはまることだろう。

(2011.7.2 記)

《STRAMD》

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